35. 続々カーブ式
平行し、やがてゆっくりと離れていくパラレル世界に迷いこんだのかと思う日がある。
商店街にはこんな店があったろうか。
環状線のホームと電車には、こんな段差があったろうか。
大川はこんなふうにながれていたろうか。
こんなものだったろうか。
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京橋、と名づけられた交差点に立つ。北側に。
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あの。真実の口が―。ローマの休日の印象的な場面に登場する、あの真実の口が、おそらく本物より大きい、あの真実の口が、商店街の入り口で口をなまぬるくあけている、あの交差点だ。
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東西は国道だ。ルート1だ。
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南北は歩行者だ。
わたるとき、ひだりを。すなわち西を見たまえ。そこには・・・。東でっせ、南向いて左やったら東でっせ。そうか、東か。ともかくこれから向かう京阪の京橋の駅から出たはずの線路がゆったりとカーブを描いている。
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駅は右に、ななめ右にあるはずだ。
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京橋を出た電車は、まずわずかに右に体を振って、ひどくゆっくりと。今日の調子をたしかめるように走りだす。
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そしてこんどは左に体を振って、ゆったりとしたカーブを曲がり、京都への旅がはじまるのだ。カーブ式。
そのとき、左手にはグランシャトーが見えているであろう。
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おおいなる城。
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そしてかつて扶桑会館であった場所。いまそこになにがあるか問題ではない。
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さっき歩いてこえたルート1を、こんどは京阪に乗ってこえる。