38. 犬のはなし
地方都市の商店街を歩いていたら、犬が本屋に入っていくのを見かけたことがある。白いどうどうとした犬だった。
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ビーチ・ボーイズというアメリカの古いバンドに、ペット・サウンズというアルバムがある。
ふしぎな作品で、さいごの曲のあと踏切を列車が通る音と、犬の鳴き声が聞えてきて終わる。
不可解な内容にメンバーのひとりが、「犬にでも聞かせるのか?」といったからペット・サウンズになったというのは、伝説の類だろう。
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よほど小さいころ、黒い犬にかまれた。いまでも黒い犬には、すこし身がまえてしまう。
その犬を飼っていた何軒か隣の家は、夫婦ふたりと思っていたが、娘の葬式が出て、はじめて娘がいたことを知った。
それからしばらくして、夫婦は心中した。
学校から帰ると、なんだか近所がさわがしく、母に聞くと「首吊りや」といわれたことをおぼえている。