0030 ドライス

 エイちゃんってだれなん。
  (最晩年の祖母はうっすらとぼけて、わたしをエイちゃんと誤認することがあった)
 そう言われたら似てるわ。エイちゃん、こんな人やったわ。
  (長い脱線や、カーブやワープをはしょって記すと、エイちゃんは祖母のいとこにあたるらしい)
 歳でいうたら甥っ子かと思うねんけど、世代はいっしょやねん。おやじ、おやじいうて、よう来てたもんなあ。
 もう死んでるやろなあ。
 そら死んでるやろ。

 「中津のドライス屋」に勤めていたと祖父が言った。ドライス?何度聞いても「ドライス」、よくよく聞くと「氷」と注釈があったので、ようやくドライアイスとわかった。
 祖父も亡くなってしばらくになる。
 そのころ祖父母の一家、つまり母を含む姉妹とその両親は、大淀に住んでいたらしい。


 おかんがパーマかけて帰ったきたらな、犬が吠えるねん。髪型かわったから、わからんねん。おかんが、この犬は!言うて怒ってたわ。
 伯母の「この犬は!」は、何度聞いてもおかしい。

 正月、そんな話をした。

 正月、そんな話をした。

 

0029 新印象派展  0031 陳舜臣