0031 陳舜臣

 快適な睡眠が手に入るなら、魂を売ってもいいとおもうことがある。

 その日も寒く、疲れて、迷ったが、髪を切ってもらいにいった。
 そのまま帰るのをなんとなく避けたかったので、反対のほうへ歩いていく。むかし住んでいたあたりだ。あまり変わっていなかった。なくなった店や、新たにできた店があった。
 居酒屋に入ってみたが、いろいろと好みではなかった。頼んだものがはずれだっただけかもしれない。
 バスならすっと帰れるのでバスの時間を計って店を出た。バス停でニュースを見ていたら、陳舜臣が亡くなっていた。

 ずっとむかし、たくさん読んだが、いま手元にはほとんど残っていない。神戸の華僑の家に生まれ、伝統的な中国の知識人の系譜をうけついでいた。
 漢詩の世界に妙に感じることがあるのは、彼のおかげかもしれない。おそろしく物識りで、控えめで、その文章には生真面目なユーモアというべき薫りがあった。

 

0030 ドライス               0032.サンルーム