32.サンルーム
大統領の陰謀という映画がある。All the President's Men。ウォーターゲート事件を扱った映画で、ダスティン・ホフマンとロバート・レッドフォードが新聞記者を演じている。
ディープ・スロートという謎の人物がふたりに情報をリークする地下駐車場の場面がよかった。その場にいるような気になる。それは静寂のなか、たまに起きる物音の生々しさのせいだとおもう。
この映画は録音賞を受賞した。
さて、ふたりが公文書館かどこかで、資料をあさる場面がある。ここでふたりは、さかんに指にツバをつけて、書類をめくっていく。
そんなことをいつまでもおぼえている。
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祖父の家は、1階に居間とダイニングキッチン。2階に3部屋とサンルームがあった。庭もあった。部屋はすべて和室だった。
そのサンルームは、もともとベランダだったものだ。趣味というには度を越した祖父の日曜大工がサンルームにこしらえかえた。
雨の日。ベランダの手すりをノコギリでごしごし切る祖父に傘をさしかける祖母の姿を、なぜか鮮明におぼえている。
「おじいさんは、なんでもうまいことこしらえはる」
こしらえる、というのも古い言葉だ。